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肺がんに対する当科の取り組み(呼吸器外科)
肺がん
肺がんとは
肺に発生したがんは、胸部レントゲン写真や胸部CT検査によって発見、診断される機会が多いですが、早期の状態では症状がないため、症状による発見では進行した状態で発見されることが少なくありません。そのため、他のがんと比べても治療による根治率が低く、検診での早期発見が推奨されています。
肺がんの治療では他のがんと同様に、手術治療、抗がん剤治療、放射腺治療の3つの治療を組み合わせて、患者さんそれぞれの病状の進行と体力などを総合的に判断して治療法を選択し組み合わせることが推奨されています。
当科(呼吸器外科)では、そのような治療の選択肢の一つである手術治療を中心に、負担の少ない内視鏡を中心とした低侵襲手術によるがん治療を行っています。
肺がんの手術治療について
20年程前は大きな開胸創から直接目で見ながら病変のある肺を切除する開胸手術が主流でしたが、10年程前からは内視鏡を併用しながらより小さな傷で手術をすることで体の負担を減らす事ができるようになってきました。また最近では内視鏡用の手術器具の進歩により、安全に内視鏡のみで肺の切除が可能となり、肺を体外に取り出す4cm程度の傷と1-2cmの傷のみとなっています。また、ロボット支援下での手術も開発されており、将来が期待されています。
傷が小さいということは、胸壁の筋肉や神経の損傷が少なく手術後の痛みが少ないこと、入院期間が短いこと、残った呼吸機能の回復が早いことなど多くの利点が報告されています。
一方で、そのような低侵襲な手術は、進行した肺がんには対応できない場合もあり、患者さんの病状によっては安全性を考慮し、従来の小開胸での手術も行っています。
当院での治療成績(手術術式と入院期間について)
肺の切除方法と切除範囲については、標準手術と縮小手術に分類されます。
標準手術はがんの存在する部屋(葉*)を切除する葉切除が基本とされ、縮小手術はがんの部分を中心とした肺の一部のみを切除して肺機能を温存する部分切除が中心になります。当院ではカンファレンスという呼吸器疾患の専門家の会議にて、病状の進行程度と併存疾患に応じて患者さんの手術方法と切除範囲を決定しています。
(*葉とは肺の気管支によって区分された肺の領域で、右肺は3葉、左肺は2葉に分類して構成されています、具体的には右の肺がんであれば右肺の1/3、左の肺がんでは左の肺の1/2を対象とすることが標準手術・葉切除となります)
*肺がんに対する標準手術・肺葉切除の治療成績について
多くの患者さんに内視鏡手術を施行しており、2cmの傷が2か所、1cmの傷が1-2か所、肺を取り出す4cmの傷が1か所と、計4-5か所の傷から内視鏡の手術道具を用いて肺葉切除を行っています。平均手術時間は約3時間程度で、術後入院期間は約10日から14日程度となっています。
(2016年-2018年 術後平均入院日数:10.3日、術後10日以内に64%、術後14日以内に95%の方が退院されています)
*肺がんに対する縮小手術・肺部分切除の治療成績について
主に内視鏡手術を施行しており、肺内の場所にもよりますが2cm程度の傷を3か所で切除を行っています。また病変が小さくて手術中に確認が難しい場合は、手術前のCT撮影によるマーキング針の留置で目印をつけるなどの対策を行い、より安全で確実に切除できるよう心掛けています。過去3年間の平均手術時間は約60分で、術後入院期間は4-5日程度です。
(2016年-2018年 術後平均入院日数:5.6日、術後4日以内に60%、術後7日以内に80%の方が退院されています)
手術後の生活について
肺は生命維持のため常に活動が必要な臓器であり、手術後は手術前よりも肺機能が低下することを避けることはできません。しかしこれまでの知見により、口腔内ケアや呼吸リハビリなど術前管理を十分行うことで、手術後も生活の質を下げない、安全な手術を行うことが可能になってきています。われわれも肺手術管理の専門家としてできる限りの情報提供とリスク評価をして対応させていただいています。
最後に
肺がんの治療は手術以外の領域でも、新たな化学療法の開発や放射線照射の精度向上によって患者さんに応じた個別対応が求められる時代になってきています。当院では手術治療以外の選択肢も含め、各専門家との会議を行いながら、患者さんそれぞれに最も適した治療が提供できるよう他科と連携を取りながら診療を行っています。手術治療については、メリットやデメリットを専門家としてご説明しますので、お気軽にご相談ください。