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管理者室より 2023年度
No201 4年ぶりに桜を想う
国は、2020年4月7日に、新型コロナウイルス感染症の拡大は戦後最大の危機であるとして緊急事態宣言を発出しました。もう遠い昔になってしまい、その年の各地の桜の名所がどのような状況であったのか覚えていませんが、きっとどこも閑散としていたのではないでしょうか。
若い頃は勤務している病院の病棟スタッフや医局の仲間と花見に繰り出していましたが絶えて久しく、最後に大勢で花見をしたのは、庄原赤十字病院に勤務していた頃の上野池公園の夜桜でした。コロナ禍であっても桜は時期が来れば咲き、そして散っていきますが、特にこの3年、好きな花であるはずの桜にあまり思い出がありません。
私の週末のウォーキングコースの途中に池があります。この池の周囲に何本か桜があり、この桜はコロナ禍であっても毎年見ているはずで、咲くさまを見て「美しい」、散るさまを見て「潔い、切ない」、などときっと感じてきたと思っていますが、その記憶がとんでしまっています。認知のせいなのか、コロナのせいで桜に没入できなかったのか分かりません。確かにこの3年の間、当たり前にやっていたことが出来なくなり、人と交わることを制限され、外へ出ていくことが憚られるような状況もありました。無理に記憶しないようにしていたわけではありませんが、この3年は後年(があれば)振り返ってみても頭の中は白いままではないかと思います。実はこのようなことを私は一度経験しています。1969年の1月から9月まで続いた大学のストライキの時期で、この間ずっと授業はなく、しかし、ストが明ければ期末テストがあることは分かっていたので私は田舎に帰るでもなく岡山にいましたが、この9か月の間、何をしていたのか記憶がとんでいます。コロナの3年も「あの頃は大変だった」、で終わるのでしょうか。
さて、今年の桜、3月下旬の休日に友人とゴルフに出かけ、3分咲きの桜を見ることが出来ました。スコアはさておき、咲いた桜や蕾の桜が見られて気持ちよい1日でした。4月1日の土曜日にはウォーキングコースの池の周りに咲いているほぼ満開の桜を見ました。朝早い時間でしたが、風もなく静かな水面に映る桜や東屋、そして背景の山の稜線が実にきれいでした。それから1週後の昼はある会で福山城に行き、少し小雨が降る中でしたが、多くの花びらを落としているとはいえ、お城を背景に桜を見ることが出来ました。そして、4月中旬の週末、ウォーキングの最中には、風に散る桜花を見つけ、しばしの間身を置くことも出来ました。こんなにいろいろなことを想いながら桜を見たのは絶えて久しく、コロナの3年間を取り返したような気持になりました。
医療の世界は一足飛びに日常には戻れませんが、遠くない時期にすべての日常が戻ってくることを願っています。
福山市病院事業管理者 高倉範尚
No200 5類になる新型コロナ―世の中は落ち着くのか―
2019年12月と言われている中国四川省武漢での最初の新型コロナウイルス感染症患者の発生から4年目に入っています。当然、わが国の最初の患者発生報告やダイヤモンドプリンセス号の連日の衝撃的な報道からも3年が経過しました。私が勤務する福山市民病院に最初に新型コロナウイルス感染症の患者さんが入院されたのは2020年3月20日でしたので、この地域での患者発生からも3年が経過しました。当院では最初の入院から今年の3月19日までのまる3年の間に1,226人の患者さんが入院され、そのうち79人の方が救命救急センターに入院されました。2020年、21年頃は、救命救急センターに入院される患者さんは、新型コロナウイルス感染による肺炎、呼吸不全などの患者さんが多く、人工呼吸器管理もしばしば必要でしたが、特にオミクロン株が流行した2022年に入ると、救命救急センターへの入院が必要な重篤な疾患の患者さんがたまたま新型コロナウイルスに感染していた、というケースが増えてきました。また、病院職員の感染はコロナ禍初期にはほとんど見られず、濃厚接触者になり自宅待機が必要となった職員も少数でしたが、オミクロン株の流行に伴い、感染する職員や濃厚接触者となる職員が増加し、また院内ではクラスターも発生し、入院の制限、3次救急を除いた部分的な救急の受入れ制限も行わざるを得ない状況となりました。
その新型コロナウイルス感染症、5月8日を以て2類から5類感染症に移行することになりました。3年を超えて連日、感染症に関するニュースが流れたので、多くの人が「5類感染症とは?」と問われれば、「インフルエンザと同じ類の感染症。どこでも診てもらえるけど医療費は自己負担になる」と、スッと答えると思います。でも、「ちょっと熱があるし、喉も痛いから○○クリニックに行ってきます」と、家を出てクリニックに行かれたら、さてどうでしょうか、ひょっとしたら「うちでは診れません、他に行ってください」と言われるかもしれません。これまで、「インフルエンザかも?」と思い、医療機関を受診した際に診療を拒否されたケースは誰もが経験がないと思うのですが、新型コロナが5類に移行すると、どうなるでしょうか。厚労省は、5類になった新型コロナの診療を拒否した場合、「応召義務」に違反すると言っていますが、すでにネットではその反論が出回っています。外来診療にしてこの有様です。入院となるともっと大変です。行政の強制力がなくなり、コロナ支援金もなくなるとコロナに対応する病床は減るだろう、とも言われています。
たとえ症状は軽くても、感染力の強いコロナウイルスの変異株が出てくれば多くの人が感染し、結果として医療機関の人手が足りなくなり、医療提供体制に大きな穴が開く恐れがあります。5月8日以降、このようなことが起こらなければよいのですが。舵取りを間違えないように気をつけねば、と思っています。
福山市病院事業管理者 高倉範尚