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がんは1981年に日本の死亡原因のトップとなり、その後も死亡者数が増加しています。現在、がんによる死亡者数は35万人を超えています。年に約100万人の死亡者数がありますから、国民の3人に1人はがんで亡くなっていることになります。従来のように「がんと診断されたら、死を待つだけである。」というイメージこそなくなって来ましたが、現在もがんと診断されることにより患者さんは死を強く意識し、恐怖・不安・絶望感を感じることもあるでしょう。このようながん患者さんの心の問題を扱う学問を精神腫瘍学(サイコオンコロジー)といいます。サイカイアトリー(精神医学)、サイコロジー(心理学)、オンコロジー(腫瘍学)という3つの専門領域から造られた言葉ですが、さらに、免疫学や内分泌学などの基礎医学、社会学、倫理学、哲学など、さまざまな科学的手法を統合して、がん患者さんの心の問題をサポートしようと研究が進められています。
サイコオンコロジーの目標は、あらゆる時期のがん患者さん、ご家族の方々に望まれる最適の心のケアを提供することです。そのために、
上記2点を研究し、臨床に生かしています。
従来、「がん患者さんに抑うつや不安が見られることは、がんという疾患に対する人間の心の反応として当然である」という考え方が医療界全体にあり、身体症状のケアに比べて心のケアは放置されることが少なくありませんでした。しかし、不安や抑うつの強い患者さんでは、身体的症状がコントロールできている方であってもQOLが低い段階から改善しないということが分かってきました。さらにがんで闘病されている患者さんには精神科疾患が高い頻度で合併することも明らかになりました。約半数の患者さんに精神科的診断名がつくという研究結果もあり、その研究において、精神科的診断名の内訳は適応障害、うつ病、器質性精神障害(せん妄など)の順で多いことが分かっています。
また、がんの告知や再発、症状悪化のストレス、痛みなどの身体症状から生じるストレスなど、がん患者さんやその家族の方が抱える精神的、肉体的重圧は非常に大きなものであり、精神科的疾患とまではいえない段階でもケアを行うことによって疾患に発展することを予防することが出来る可能性があります。がん患者さんを支えるご家族にも精神面の不調が生じやすいので、ご家族に対するケアを提供することも当科の特徴です。向精神薬(抗不安薬、抗うつ薬など)、漢方薬などの治療薬の処方、支持的精神療法、カウンセリングを中心とした心理的ケアにより、患者さんとその家族をサポートしていきます。
入院中のがん患者さんとご家族に対しては、緩和ケアチームというチーム診療も行っています。これは、医師、看護師、薬剤師、臨床心理士など関連する複数の職種でチームを組み、患者さんとご家族の心と身体のつらさをサポートするものです。お気軽にご相談ください。
詳細は当院広報誌に記載したサイコオンコロジーについてをご覧ください。
広報誌ばら2008年9月号 2から3ページ
『サイコオンコロジーについて』[PDFファイル/3.02MB]
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