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慢性的肝臓の病気にはその原因から分類すると、
などがあります。
また、それぞれの病態に応じて、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変に分類されます(例えばB型肝炎ウイルスによる急性肝炎の場合にはB型急性肝炎、また慢性肝炎、肝硬変の場合にはそれぞれB型慢性肝炎、B型肝硬変と診断されます)。慢性肝炎のうち、15%はB型慢性肝炎、70%はC型慢性肝炎、あと15%は自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎などです。B型慢性肝炎、C型慢性肝炎では、初期慢性肝炎から肝硬変へと進展するには20年から40年かかると推定されています。慢性肝炎ではほとんど症状はなく、肝硬変になって倦怠感、食欲不振、さらに黄疸、腹水などの症状がでてきます。慢性肝炎から肝硬変への経過中には肝がんが発症することもあります。
ウイルス性肝炎のうち、A型肝炎ウイルスは経口感染により急性肝炎(A型急性肝炎)として発症し、慢性化することはありません。B型肝炎ウイルス感染にはさまざまな病態があります。B型肝炎ウイルスは分娩時、あるいは小児期に感染すると感染は持続し、肝機能の正常なキャリアーになるか、あるいは肝機能異常が持続する慢性肝炎になります。成人期に感染すると急性肝炎として発症しますが、一般には慢性肝炎にはなりません(B型肝炎ウイルス遺伝子型A型の場合にはウイルスが排除されず持続感染し、慢性肝炎になることもあります)。C型肝炎ウイルスが感染した場合には持続感染する確率は高く約70%といわれています。
非アルコール性脂肪肝炎、原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎は基本的に慢性肝障害として発症し、持続的に進行して肝硬変になることもあります。これらの疾患でも肝がんを発症することもあります。
B型肝炎はB型肝炎ウイルスが感染して肝臓に炎症を起こす疾患です。血液検査でHBs抗原が陽性であればB型肝炎ウイルスが感染していると診断できます。さらに血液中のB型肝炎ウイルスの遺伝子であるHBV-DNAを測定(Taq Man HBV検査)することによって血液中のB型肝炎ウイルスの量を知る ことができます。
B型肝炎ウイルスの感染には、B型肝炎ウイルスが感染していても肝機能が正常である場合があります。これを無症候性キャリアーといいます。無症候性キャリアーの状態であれば治療は必要ありません。慢性肝炎であれば、AST、ALT値が40IU/L以上でTaq Man HBVが4.0LogIU/ml以上、肝硬変であればTaq Man HBVが陽性であれば治療対象となります。
現在、B型肝炎は主にエンテカビル(バラクルード)、テノホビル(テノゼット)によって治療されています。またラミブジン(ゼフィックス)に対して耐性となった場合にはアデフォビル(ヘプセラ)が追加投与されます。抗ウイルス剤によるB型肝炎の治療目標はTaq Man HBV検査値を“ケンシュツセズ”にすることです(図1)。それにともなってAST、ALT値も正常化してきます。しかし、これらの抗ウイルス剤はB型肝炎ウイルスの増殖を抑制するだけであり、B型肝炎ウイルスを除去することはできません。従って抗ウイルス剤を中止するとB型肝炎ウイルスは再び活発に増殖し、肝炎が再燃します。ですからこれらの薬剤は原則服薬を継続する必要があります。
また抗ウイルス剤では、抗ウイルス剤服用による催奇形性が否定されているわけではありません(テノフォビルは他の抗ウイルス剤に比較して催奇形性が低いといわれています)。挙児希望のある35歳以下の患者さんには、免疫力の活性化による抗ウイルス効果を期待して、インターフェロン治療が行われることもあります。抗ウイルス剤による治療、あるいはインターフェロンによる治療にも肝炎治療助成制度が適応されます。
抗ウイルス剤により血液中のHBV-DNA値(Taq Man HBV)が“ケンシュツセズ”の状態になっても肝臓のなかにはB型肝炎ウイルスはいますから、肝がんができることもあります。ですから、肝機能の正常なキャリアーの患者さんももちろん、年に2回は画像診断(腹部超音波検査、CT検査、MRI検査)を含む定期的な受診・検査が必要です。
C型肝炎ウイルスの感染は、まず血液検査でC型肝炎に対する抗体(HCV抗体)を調べます。HCV抗体が陰性であれば、C型肝炎ウイルスは感染していません。HCV抗体が陽性であれば、C型肝炎ウイルスに感染している可能性があり、さらにC型肝炎ウイルスの遺伝子であるHCV-RNA(Taq Man HCV検査)を測定します。HCV-RNA検査が陽性であれば、C型肝炎ウイルスが感染していると診断できます。HCV-RNA(Taq Man HCV検査)が“ケンシュツセズ”であれば、既往感染でありC型肝炎ウイルスは感染していません。
C型肝炎ウイルスに感染している肝細胞はリンパ球によって壊され、肝炎となります。肝細胞が壊されるときに肝細胞の中にあったAST、ALTなどの酵素が血液中に放出され、その値が高ければたくさんの肝細胞が壊されているということになります。肝炎が10年、20年続きますと進行した慢性肝炎となり、さらに10年、20年経ちますと肝硬変となり、肝細胞癌ができることもあります。
肝炎を治すためには、C型肝炎ウイルスを体内から駆除しなくてはなりません(図2)。以前には、C型肝炎ウイルスを駆除するためにインターフェロン治療をしていました。しかし、インターフェロン治療は、発熱、全身倦怠感などの副作用が強く、その割にはC型肝炎ウイルスが駆除される率は約50、60%程度と低い治療効果でした。
最近、C型肝炎ウイルスに対する新しい経口剤が開発されました。遺伝子型1型C型肝炎ウイルスに対しては、腎機能がよければヴィキラックス、あるいはハーボニー(3カ月間)、腎機能が悪ければダクルインザ・スンベプラ併用療法(6カ月間)で治療します。遺伝子型2型C型肝炎ウイルスに対しては、腎機能に問題なければソバルディ・リバビリン併用療法(3カ月間)となります。C型肝炎ウイルスに薬剤耐性(血液検査で判別可能です)がなければ、治療したほぼ全員でC型肝炎ウイルスが駆除されます。今後もC型肝炎ウイルスに対するより治療効果の高い経口剤が開発される予定です。
これらの薬剤には副作用がほとんどなく初期の肝硬変(Child-Pugh分類A)の患者さんでも治療できますが、進行した肝硬変(Child-Pugh分類B、C)、あるいは肝細胞癌のある患者さんでは治療できません(肝細胞癌を手術、あるいはラジオ波焼灼療法で治療し、現在肝細胞癌のない患者さんは治療できます)。
現在はC型肝炎治療助成制度を申請すれば、月1、2万円の自己負担により治療可能です。
肝硬変は、肝臓に炎症が続くことによって、肝臓が委縮して硬くなり、肝臓の働きが低下する病気です。肝硬変なるには、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、アルコール性肝障害、自己免疫性疾患などさまざまな疾患がありますが、いずれの原因疾患でも肝硬変としての病像は同じです。
肝臓にはもともと体に必要なものを作る、必要でないものを代謝して胆汁に流すなどの働きがありますが、肝硬変になりますと、そうした肝臓の働きが低下し、また肝臓が委縮することによって肝臓内の血液の流れが障害されます。その結果、肝硬変患者さんの血液検査ではAST値がALT値より高くなる、血清アルブミン値、プロトロンビン時間値、血小板数が低下し(血小板数10万以下では肝硬変である可能性が高くなります)、ビリルビン値、アンモニア値が上昇します。腹部超音波検査、CTあるいはMRI検査では肝臓が委縮し、その表面がでこぼこになるなどの肝臓の形の変化、あるいは脾臓の肥大、腹水が見られます。
肝硬変では進行の程度によって様々な症状が現れます。肝臓の働きの低下によって黄疸、肝性脳症、クモ状血管腫、女性化乳房、手掌紅斑、下肢浮腫が出現し、肝臓の血流の悪化により食道静脈瘤、腹水などの症状がみられます(図3)。肝硬変の進行度は、血液検査結果、症状の程度により、Child-Pugh分類A~Cに分類されます。Child-Pugh分類Aは初期の肝硬変、Bは時々症状が出るような中期の肝硬変、Cは常に症状がある進行した肝硬変です。現在、肝硬変の程度により、身体障害者(肝障害)の認定が受けられます。
肝硬変の治療として、肝炎ウイルスによる肝硬変ではそれぞれB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス剤、自己免疫性肝炎による肝硬変にはステロイド、原発性胆汁性肝硬変ではウルソによる治療など、肝硬変の原因による治療法があります。また、食道静脈瘤、腹水、肝性脳症などの肝硬変の合併症に対する治療法もあります。また肝硬変の患者では、肝硬変を悪化させないためには日常生活が重要になります。
肝硬変になりますと、年率7、8%の発癌率で肝細胞癌の発癌があるといわれています。年3、4回の画像診断(腹部超音波、CT、MRI検査)を行い早期に肝細胞癌を発見することが重要です。
肝がんは正常な肝臓にできることはなく、何らかの原因で慢性的に障害を受けている肝臓にできます。一般には肝がんはB型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎、肝硬変にできることが多いのですが、その他にもアルコール飲酒による肝硬変や、さらに最近では脂肪肝・糖尿病を 基礎疾患とする肝硬変に癌ができる人も増加しています。
肝がんは慢性肝炎から肝硬変へと進展するにつれて発癌率(肝がんになる確率)が増加します(図4)。ですから肝がんにならないためには肝硬変にならないことが第一です。しかし、もし肝がんができてしまったら、十分に治療ができる小さい肝がんのうちに見つけることが重要です。肝がんを早く見つけるためには、定期的に受診し4、6カ月毎に腹部超音波検査、CT、MRI検査を受けることです。
肝がんの治療は、大きく分けて肝臓の病気がどの程度進んでいるか(慢性肝炎か肝硬変か)、肝がんの大きさによって決定されます。肝臓が慢性肝炎であり肝臓の働きが十分であれば、肝がんがある程度大きくても手術によって肝がんを切除することが可能です。肝臓が肝硬変となり肝臓の働きが弱っていれば肝臓を切り取ることはできませんので、手術による肝がんの治療ができないこともあります。
肝がんの治療では手術による肝がん切除が一番良いのですが、もし手術による切除ができない時には、肝がんの大きさが3cm以内、個数が3個以内であればラジオ波焼灼療法によって治療します。大きさが3cm以上であれば肝動脈化学塞栓術(カテーテル治療)によって肝動脈を介して直接肝がんに抗がん剤を注入して治療します。しかし肝動脈化学塞栓術(カテーテル治療)で肝がんがすべてなくなるわけではありません。残った肝がんが再び大きくなります。CT検査などの画像診断で経過を見て、再び肝がんが大きくなったら再度同様な治療をします。だいたい4、6カ月毎に繰り返します。
また、大きな肝がんの治療には、最近では粒子線(陽子線、重粒子線)治療によって治療することもあります。ただし現在は粒子線治療には医療保険がきかず、自費による治療となります。さらに肝予備能が非常に悪くどんな治療できない場合には、肝がんの大きさが3cm未満、個数が3個以内であれば、肝移植を行う場合もあります。
仮に手術による肝がん切除で治療した場合であっても、もとの肝臓は慢性肝炎、肝硬変の状態であることにはかわりなく肝臓内の他の部位から肝がんが再発することがあります。手術によって肝がん切除をした場合でも再発を早く見つけて治療するために、定期的診察、画像診断を継続する必要があります。また、肝がんだけではなく、慢性肝疾患が進行しないように肝臓の病気の治療も継続しなくてはなりません。