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管理者室より 2025年度
No225 病院がつぶれる!
3月のある朝、TVを見ていると、住みたい街ランキングで常に上位の吉祥寺から救急病院がなくなった、というニュースが流れていました。街の人たちのインタビューを聞くと、「救急病院が近くにないと急病のときに不安」などを口にされていました。調べてみると、最後まで残っていた病院は建て替えての存続を予定していたようですが、建築費用の高騰でそれが困難となり、昨年9月末で閉院となったそうです。この病院は吉祥寺で唯一の二次救急病院であったため、住民の存続・再開の思いも強く、その声が届いたのか最近、都内の医療法人が病院を継承することになったとのことですが、再開は数年後になる見込みで、住民の不安はもう少し続くことになります。
吉祥寺に限らず、今、「病院医療の崩壊」が始まろうとしています。さまざまな病院団体から「ご存知ですか?あなたの街の病院がいま危機的状況なのを!!地域医療はもう崩壊寸前です」とか、「今のままの診療報酬では倒産する病院も」などの声明が出されていて、国立大学病院でさえ、「42ある国立大学病院のうち32病院が2024年度の収支は赤字見込みで、赤字額は総額281億円にのぼる」と発表しています。
コロナの時期から低迷していた病床利用率は改善傾向にはあるようですが、日本病院会や日本病院協会、全国自治体病院協議会などの6病院団体が2024年度の診療報酬改定後の病院の経営状況を調査した結果によると、改定前の2023年度に比べ改定後の医業収益は伸びているものの、医業費用はそれ以上に大きく増加しており、100床当たりの平均の医業収益は11億1,953万円、医業費用は11億8,645万1,000円と6,700万円あまりの赤字となっています。この原因として、給与費、診療材料費、委託費、水道光熱費など経費、控除対象外消費税等負担額の増加が挙げられていました。これまでの診療報酬改定では各地域で高度医療や救急医療を担っている急性期病院の人的配置を促すことで増収となるような改定が行われてきたと理解していますが、人員増加による人件費増加や諸物価の高騰、特に急性期病院では政府が消費税分は含まれているとする診療報酬では賄いきれない控除対象外消費税(当院の場合だと12億円ほど)など、今、急性期病院にはすさまじい逆風が吹いています。「病院がつぶれる!」は決して冗談ではありません。
2025年春闘の賃上げ回答の映像も目にしましたが、多くの企業で景気のいい数字が並んでいて、はて、これほど景気の悪い医療の世界に人が来てくれるだろうかと、ますます心配になりました。また、自民・公明・維新は次年度医療費の4兆円削減を目指すことで合意しました。医療に無駄や過剰があり、それを正していくことで削減を図るのなら理解はできますが、手当をすべきところに手当をせずに削減を図るようなことになれば、国がつぶれる始まりになりかねないと思っています。
福山市病院事業管理者 高倉範尚